就労継続支援B型

B型事業所の工賃の決め方|能力給・評価表はあり?計算方法は?

「これから開業する方」や「工賃を見直したい方」向けに、就労継続支援B型事業所の工賃の決め方を解説します。

適切な工賃金額を決めるには、生産活動の収益(予想や実績)から利用者の人数、利用日数などを考慮して、逆算しなければなりません。

時給、日給、出来高‥など、工賃形態も決める必要があります。

工賃の金額や形態は、利用者の意欲や、健全な事業運営につながるので、慎重に決めていきましょう。

その他「評価表による能力給」「工賃規程」「3,000円ルール」なども解説します。

記事執筆時点での情報です。自治体によっても細かいルールが異なることがあります。工賃の取扱を決めたら、管轄の行政機関へ問題がないか必ずご確認ください。

就労継続支援B型の工賃の決め方

B型事業所の工賃を決める流れや計算方法、しくみを解説していきます。

工賃に関する前提知識も押さえていきましょう。

工賃の金額を固定せずに、単純に確定した生産活動の収益から計算して支給するケースもあります。ただ、その場合も、今から紹介する計算方法を知っておくと役立ちます。どの計算方法を採用するかは工賃規程に記載しておきましょう。

↓工賃規程の作り方・例・テンプレート
B型事業所の工賃規程のひな形と例7つを紹介!作り方も

Step1:財源総額を算出

まずは1か月分の工賃の財源となる金額を算出します。

収入や経費も1か月分で計算してください。

工賃財源の計算方法

工賃の財源総額 = 生産活動の収入 - 生産活動に係る経費

上記の「生産活動の収入」「生産活動に係る経費」は、収入は実現主義、経費は発生主義に基づく「損益ベース」により計上されるものを指します。現預金の収支に基づくものではないので注意してください。特に社会福祉法人においては「資金収支計算書」における支払資金の増減に基づいて計上されるものではないことに注意してください。

参考:厚生労働省「就労支援事業会計の運用ガイドライン」

生産活動とは、軽作業や農作業など、就労支援において利用者が行う作業のことです。

生産活動の収入(=売上)から、原材料、光熱費など「生産活動に必要な」工賃以外の経費を引きます。

会計は「福祉事業活動」と「生産活動」でしっかり分けましょう。

共通経費の按分など「経費」については、厚生労働省「就労支援事業会計の運用ガイドライン」をご覧ください。

これから開業する場合は「収入は少なめ」「経費は多め」でシミュレーションして、「工賃の財源総額」は少なめに見積もっておきましょう。

なぜ少なめで見積もる?

予想以上の売上など、予算が余った場合は、賞与などで調整できますが、逆に足りなくなった場合は、訓練等給付費で工賃を補うことができないためです。

訓練等給付費から出すのはNG

工賃は自立支援給付(訓練等給付費)から出すことは禁止されています(災害時などを除く)。

Step2:人数や期間/時間等で割る

次は、工賃形態に合わせて、1人1単位あたりの金額を算出していきます。

工賃形態は「時給」「日給」「出来高」が、作業や通所の意欲を刺激できるのでおすすめです。

工賃形態の種類

例:時給、日給、月給、出来高

特に出来高制には「生産性アップの促進」「利用者間の不満軽減」などのメリットがあります。可能なら取り入れましょう。

工賃形態は、複数を組み合わせても構いません。作業内容ごとに工賃を変えても問題ありません。

それでは、工賃の算出方法を見てきましょう。

開業済みの場合は過去のデータを参考にして、これから開業する場合は、利用者が休んだり、遅刻、早退したりするケースも想定した数値で計算するとよいでしょう。

時給のみの場合

時給 = 工賃の財源総額 ÷ 営業日 ÷ 1日の平均利用人数 ÷ 1日の平均利用時間

例えば「工賃の財源総額」が38万円/月で、営業日20日、平均で1日18人、1日4時間、利用する場合は以下になります。

38万円 ÷ 20日 ÷ 18人 ÷ 4時間

= 263.88‥

なので、時給250円くらいが工賃として妥当だと考えられます。

ヤンネコ

赤字になるのはマズいから「切り上げ」や「四捨五入」じゃなくて「切り捨て」がいいんだね。

日給のみの場合

日給 = 工賃の財源総額 ÷ 営業日 ÷ 1日の平均利用人数

例えば「工賃の財源総額」が38万円/月で、営業日20日、毎日18人が利用する場合は以下になります。

38万円 ÷ 20日 ÷ 18人

= 1,055.55‥

なので、日給1,000円くらいが工賃として望ましいでしょう。

月給のみの場合

月給 = 工賃の財源総額 ÷ 1日の平均利用人数

例えば「工賃の財源総額」が38万円/月で、毎日18人が利用する場合は以下になります。

38万円 ÷ 18人 = 21,111.11‥

なので、月給2万円あたりが妥当だと考えられます。

計算はやや複雑になりますが、工賃形態を組み合わせる場合も、同じ要領で算出できます(いずれかの金額を仮定して計算)。

「施設外作業での手当」などの特別手当も、導入する予定なら計算に加えましょう。

ちなみに上記の「月給のみ」の金額は「一人あたりの月額工賃」でもあります。全国平均や都道府県の平均と比較してみましょう。

都道府県や指定都市、中核都市への工賃実績報告に用いられる平均工賃は1年分を別途決められた計算方法で算出する必要があります。

財源と支払いに差額が生じたら

就労継続支援B型では、原則「生産活動の収益は全て利用者に分配」しなければなりません。

利用者に、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない。

引用元:平成十八年厚生労働省令第百七十一号

つまり、本来は生産活動において「余剰金」が発生してはならないのです。

しかし、実際には、時給や日給など、あらかじめ工賃の金額を決めた場合、収益と設定した工賃との支払いに差額(余剰金や赤字)が生じるかと思います。

生産活動において「余剰金が発生しそうな(した)場合」や「赤字になりそう(なった)」場合の対処法を紹介します。

余剰金が発生しそうな場合

余剰金が発生しそう(した)場合、「工賃の増額」や「賞与(ボーナス)」「積立金」で調整しましょう。

就労支援事業では、将来にわたって安定的に工賃を支給するなどのために、条件を満たした場合のみ、積立金を計上することができます。

積立金は、将来の工賃に補填できる「工賃変動積立金」と、設備投資等の費用に充てられる「設備等整備積立金」の2種類あります。

就労支援事業の積立金
工賃変動積立金設備等整備積立金
概要将来の一定の賃金・工賃水準を下回った場合に、賃金・工賃を補填することに備える目的で計上する積立金生産活動に要する設備等の更新又は新たな業種への展開を行うための、設備等の導入に備える目的で計上する積立金
各年度の積立限度額過去3年間の平均賃金・工賃の 10%以内就労支援事業収入の10%以内
積立上限額過去3年間の平均賃金・工賃の 50%以内就労支援事業資産の取得価額の 75%以内

現状は上記2種類の積立金以外の形で、収入を翌年度に繰り越すことはできません。

積立金は「積み立て」および「取り崩し」において、いずれも理事会等の議決が必要です。

条件などの詳細は厚生労働省「就労支援事業会計の運用ガイドラインp31」をご覧ください。

赤字になってしまう場合

災害やコロナ特例などの例外を除き、訓練等給付費(自立支援給付)は原則、就労継続支援B型の工賃に充ててはなりません。

先ほど紹介した積立金があれば、理事会等の決定により取り崩すことができますが、そうでない場合は工賃額の見直しが必要です。

工賃規程を変更する場合は、あらかじめ利用者から同意を取っておきましょう。

どうしても訓練等給付費などで補わなければ運営していけない場合は、管轄の行政機関へ一度相談してみましょう。

ガイドさん

ちなみに就労継続支援A型の場合は、B型と違って赤字なら経営改善計画書の提出が必要だよ。

評価表による能力給はあり?

障害福祉では「工賃に能力給を取り入れてはいけない」という考えを持っている方も一部います。

理由は、旧労働省や現在の厚生労働省が発行する通達に「技能に応じて工賃に差別を設けてはならない」という旨があるためです。

しかし、現在では一般的に「出来高制」「作業内容ごとに工賃に差をつける」などは問題ないとされています。

評価表による能力給を取り入れているB型事業所も一部ありますが、評価表を導入する場合は、管轄の行政機関から「差別にはあたらない」との、お墨付きをもらっておくことをおすすめします。

ヤンネコ

厚労省も評価表による能力給はOKとまでは、ハッキリ言ってないみたいだね。

能力給の詳細は、以下記事をご覧ください(作業意欲を高めるコツも紹介)。

工賃形態は何が多い?

2017年の日本財団による調査結果(n=3,717)を見ると、大半のB型事業所では「時給」が採用されているようです。

能力給もある程度採用されており、利益をそのまま利用者数で割っているところもあるようですね‥。

就労継続支援B型事業所の工賃形態グラフ
引用元:就労支援B型事業所に対するアンケート調査

工賃に関する必須知識

その他、知っておくべき就労継続支援B型の工賃決定に関する必須知識をまとめておきました。

工賃規程をしっかりつくろう

工賃規程とは、利用者に工賃を支払う際のルールをまとめたものです。

「工賃の金額・計算方法・支払方法」など、事業者独自の工賃ルールを策定し、初回契約時や工賃ルールの変更の際に利用者から同意を得ておく必要があります。

工賃規程をしっかり整備しないと、実地指導で指摘されるので気を付けてください。

工賃規程の「作り方」や「見本」「例」「ひな形(テンプレート)」は以下をご覧ください。

↓工賃規程の作り方・例・テンプレート
B型事業所の工賃規程のひな形と例7つを紹介!作り方も

平均工賃は月額3,000円以下NG

就労継続支援B型では、平均工賃が月額3,000円(程度)以下になるのは、指定要件を満たさないためNGです(※1)。

あくまで「平均工賃」であり、平均が月額3,000円を超えていれば、工賃が月額3,000円以下の利用者が一部にいても大丈夫です。

参考:「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」第201条第2項

令和6年度の報酬改定後の平均工賃の計算方法など、詳細は以下をご覧ください。

工賃の支払方法

工賃の支払い方法は事業所により様々ですが、支給日に1か月分をまとめて「手渡し」または「銀行振込」のケースが多いようです。

銀行口座を持っていない人もなかにはいるので、利用者ごとに手渡しと口座振込の両方で対応できる体制がおすすめです。

支給の遅れや未払いは絶対にないよう気を付けましょう。

まとめ&おすすめ資料

  • 工賃は「財源総額」から逆算して決めるとよい
  • 時給、日給、月給、出来高などの工賃形態がある
  • 余剰金や赤字が発生しないよう注意
  • 評価表による能力給を導入したいなら行政機関へ確認
  • 工賃規程はしっかり作ろう
  • 平均工賃は月額3,000円を上回るように

手当や工賃形態を組み合わせるなどの工夫をしたり、工賃アップをはかったりして、利用者の意欲をどんどん高めていきましょう。

厚生労働省「就労支援事業会計の運用ガイドライン」をまだ読んでいない方は、一読することをおすすめします。

工賃向上計画については「事業所の工賃向上計画策定に関するガイドライン」が参考になります。

後者は茨城県の資料なので、地域ごとに細かいルールが異なる可能性があることも念頭にお読みください。

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